【技術コラム】鉄板下地への洗い出し施工は可能か?徹底解説!
洗い出しは、その美しい表情と和風・洋風問わず様々な建築デザインに馴染む柔軟性から、多くの建築物で採用されています。しかし、一般的に洗い出しの施工は、コンクリートやモルタルといった堅牢で動きの少ない下地が条件とされています。

では、納まりの都合上、下地を鉄板や二重床などにせざるを得ない場合、洗い出しは施工可能なのでしょうか?この記事では、鉄板下地への洗い出し施工の可能性と、その際の注意点、そして当社洗い出し製品の強度データに基づいた具体的な施工条件について詳しく解説します。
鉄板下地への洗い出し施工における課題
鉄板下地へ洗い出しを施工する際に最も問題となるのが、下地のたわみです。洗い出しは砂利、セメント、水が主成分であり、コンクリートとほぼ同じような性質を持っています。そのため、下地が大きくたわんでしまうと、洗い出し層にひび割れや剥離が発生するリスクが高まります。
当社洗い出し製品の強度データから見る、たわみ許容範囲
当社では、洗い出し製品の性能を評価するため、様々な試験を実施しています。特に洗い出しのように薄く広がる材料にとって、曲げ強度は下地の動きに対する追従性を示す重要な指標となります。また、圧縮強度は、材料が上からの荷重にどれだけ耐えられるかを示す指標です。
当社試験の結果、洗い出し製品は一定の曲げ強度と圧縮強度を有していることが確認されています。
これらのデータは、当社の洗い出し製品が一定の強度を持っていることを示していますが、この数値から直接的に「鉄板下地が〇〇mmたわむと影響が出る」という具体的な数値を導き出すには、洗い出し層の厚みや、たわみの種類(集中荷重によるものか、面全体でのたわみか)といった様々な要因を考慮した詳細な構造計算が必要となります。
洗い出しのような硬質な材料の場合、下地のたわみは極めて小さく抑えることが重要です。一般的な建築仕上げ材の許容たわみ量よりも厳しく管理する必要があります。
具体的に洗い出しに影響が出るたわみ量と、目地計画について
洗い出しのひび割れや剥離は、主に引張応力によって発生します。下地がたわむと、洗い出しの底面には引張応力、表面には圧縮応力が発生します。当社の洗い出し製品は、特殊ウレタン樹脂により一定の曲げ強度を有していますが、その強度を超える引張応力が洗い出し層に発生すると、クラック(ひび割れ)につながる可能性が高いです。
そのため、鉄板下地の設計においては、洗い出し層に生じる引張応力が、当社洗い出し製品の曲げ強度を十分に下回るように、たわみ量を極めて小さく抑える必要があります。
原則として、鉄板下地への洗い出し施工は、以下の基準を推奨します。
スパンごとに目地設置が必須: 鉄板の伸縮や下地のたわみに洗い出し層が追従できないことを考慮し、必ずスパンごとに目地を設けてください。この目地は洗い出し層まで連続させる必要があります。。
基本はスパン300mm以下で設計: たわみを最小限に抑えるため、下地鉄板の支持スパンは300mm以下を基本とします。これは、鉄板が支えなしで大きくたわむのを防ぐための最も基本的な対策です。
許容たわみ量はL/750以下: たとえば、2.3mm厚のデッキプレートにリブとフランジ(立ち上がり)を組み合わせた構造を想定し、たわみをスパンの1/750以下に抑制することが重要です。これは、石張りなどの硬質仕上げ材の設計基準であるL/720よりもさらに厳しい条件であり、洗い出しの品質を確保するために不可欠です。
施工可能な鉄板の厚みと補強方法
上記のたわみ許容範囲を踏まえ、洗い出し施工が可能な鉄板の厚みは、以下の要素によって大きく変動します。
- スパン(支持点間の距離): スパンが長くなるほど、同じたわみ量を達成するために厚い鉄板が必要になります。
- 荷重: 上に載る荷重(人、物など)が大きいほど、厚い鉄板が必要になります。
- 鉄板の材質と構造: 鋼種や、リブ(補強材)の有無などによって剛性が異なります。
具体的な厚みは、洗い出しを施工する場所の荷重条件とスパンに基づいて、構造設計者が厳密に計算する必要があります。
厚みが足りない場合の補強方法
計算の結果、必要な剛性が得られない場合は、以下の方法で鉄板下地を補強する必要があります。
鉄板下地への洗い出し施工の準備と条件
上記を踏まえ、鉄板下地への洗い出し施工を成功させるための条件と準備方法は以下の通りです。
- 鉄板の厚みを増す: 例えば、2.3mm厚から3.2mm厚に増すなど、直接的な方法ですが、コストアップや重量増につながります。
- リブ(補強材)を設ける: 鉄板の裏面にH形鋼やアングル材などのリブを取り付けることで、曲げ剛性を大幅に向上させることができます。リブ間隔を狭くすることで、たわみ抑制効果はさらに高まります。
- 鉄板端部を立ち上げる(フランジを設ける): 鉄板の端部をL字型やコの字型に折り曲げたり、別の鉄板を溶接したりして立ち上がり部分を設ける方法です。この立ち上がり部分が梁のような役割を果たし、鉄板全体の曲げ剛性を大幅に向上させます。洗い出しの塗り厚(例:10mm)に合わせて、この立ち上がり部分まで洗い出しを回し込むことで、納まりが美しくなり、洗い出しの端部の保護にもつながります。工場での曲げ加工や、現場での溶接など、様々な方法が考えられます。
- 支持点の間隔を狭める: 支持点となる梁や柱の間隔を狭めることで、実質的なスパンを短くし、たわみを抑制します。
- 複合床材の採用: 鉄板とコンクリートを組み合わせたデッキプレート構造など、より剛性の高い複合床材の採用を検討することも有効です。

デザインと品質のトレードオフ
上述の通り、洗い出しのひび割れリスクを最小限に抑えるためには、下地のたわみ抑制と細やかな目地設置が不可欠です。しかし、これらの対策は、鉄板の厚み増し、リブの追加、目地材の増加などにより、コストアップや重量増といったデメリットを伴うことがあります。
特に、目地を細かく設けることをデザイン上嫌う場合は、さらに厳しい条件(例:許容たわみ量をL/850にするなど) を求め、それに伴い鉄板の厚みを増したり、リブ間隔を極限まで狭めたりする必要が生じます。これは、デザイン的な制約と品質(耐久性)のトレードオフの関係にあることを意味します。最適なバランスを見つけるためには、設計者、構造設計者、施工者との綿密な打ち合わせが重要です。
鉄板下地への洗い出し施工の準備と条件
上記を踏まえ、鉄板下地への洗い出し施工を成功させるための条件と準備方法は以下の通りです。
1. 下地のたわみ対策の徹底
- 構造設計による厳密な計算: 鉄板下地のスパン(基本は300mm以下)、荷重、鉄板の材質、洗い出しの厚みなどを考慮し、洗い出し層にひび割れが発生しないように、鉄板のたわみをスパンの1/750以下に抑制するための鉄板の厚みや補強方法を、専門家による構造計算で決定します。
- 局所的なたわみの防止: 点荷重などが集中する可能性がある場所では、さらに局所的な補強を検討し、たわみを抑制します。
2. ジョイント目地の設置
- 鉄板のジョイント目地には必ず洗い出しまで目地を設ける: 鉄板は温度変化などにより伸縮するため、ジョイント部分で必ず目地を設ける必要があります。基本はスパンごとに目地を設置し、必ず洗い出し層まで連続させてください。 この目地は洗い出し層まで連続させることで、鉄板の動きが洗い出し層に直接伝わるのを防ぎ、ひび割れを抑制します。いくら細かくなっても、目地は必ず設けてください。
3. 鉄板の錆対策と接着強化
- エポキシ樹脂系の錆止めプライマーの塗布: 鉄板は錆が発生すると、仕上げ材の剥がれを助長するだけでなく、下地そのものの劣化にもつながります。そのため、錆対策は必須です。密着力が高く、防錆効果のあるエポキシ樹脂系のプライマーを十分に塗布してください。
- 高密着性プライマーの使用: 当社の洗い出しは特殊ウレタン樹脂をバインダーに使用しているため、エポキシ樹脂面への接着力は問題ありません。しかし、確実な密着を得るためにも、下地との密着性を高めるエポキシ樹脂系のプライマーを選定してください。
4. 施工時の注意点
- 下地の清掃と脱脂: プライマー塗布前には、鉄板表面の油分や汚れを完全に除去し、清潔な状態にしてください。
- 適切な養生: 施工後は適切な期間、洗い出し層が完全に硬化するまで養生を行い、早期の荷重負荷を避けてください。
鉄板下地への洗い出し施工は、適切な構造設計と丁寧な下地処理を行うことで、十分に可能です。特に、下地のたわみを極限まで抑制すること(基本スパン300mm以下、L/750のたわみ許容)、そして鉄板のジョイント部には必ず洗い出し層まで目地を設けること(スパンごとの目地設置)、さらには鉄板端部の補強(立ち上げ)も有効な手段です。
これらの条件は、コストやデザイン上の制約と向き合うことになりますが、洗い出しの美しい仕上がりと長期的な耐久性を確保するためには不可欠です。専門家と十分に協議し、これらの条件を満たすことで、鉄板下地でも美しい洗い出しの空間を実現することができます。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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