車椅子やベビーカーにもやさしい床仕上げを考える

公共施設や福祉施設、集合住宅の共用部、あるいは住宅のアプローチ。
近年、設計の現場では「誰にでも使いやすい床」を求められる機会が増えています。
特に車椅子やベビーカーの利用を想定した設計では、段差だけでなく床材の選定が使い勝手を大きく左右します。
単に「滑りにくい」「フラットである」という機能性だけでなく、意匠性・耐久性・メンテナンス性といった観点も求められるため、設計者にとって床材選びは常に悩ましいテーマです。
フラットで滑りにくい床材とは?
車椅子やベビーカーが通行する床には、主に以下のような性能が求められます。
・段差がないこと(転倒防止・走行抵抗の低減)
・表面の滑りにくさ(雨天や屋外でも安全性を確保)
・耐久性とメンテナンス性(頻繁な清掃・紫外線や摩耗への耐性)
・デザインの調和(周囲の建築素材と統一感を持つ)
しかし、これらをすべて満たす素材は多くありません。
特に屋外では、「滑りにくく」「汚れが目立ちにくく」「劣化しにくい」床を選ぶことが難しいのが現実です。
解決策①:コンクリート仕上げ ― コストと施工性を優先するなら

最も一般的で多く採用されるのがコンクリート仕上げです。
刷毛引きや金ゴテ仕上げなど、表面の仕上げ方法で滑り止め性能を調整でき、コスト面でも優れています。
【メリット】
・大面積に対応しやすく、コストパフォーマンスが高い
・車椅子・ベビーカーの走行抵抗が少ない
・施工が容易で短工期
【デメリット】
・熱や紫外線による退色、ひび割れが発生しやすい
・表面が単調でデザイン的に物足りない
・経年劣化による粉化や白華現象が起きやすい
デザイン性よりも機能性・コスト重視の現場では最適ですが、エントランスや外構など意匠的に見せたい空間ではやや物足りなさを感じることもあります。
解決策②:タイル仕上げ ― デザインバリエーションの豊富さ

タイルは意匠性の高さと耐久性から、設計士にも人気の高い選択肢です。
滑り止め加工が施された外装タイルやノンスリップタイルを使えば、車椅子・ベビーカー対応も可能です。
【メリット】
・カラーバリエーション・質感が豊富
・高級感があり、建築デザインに合わせやすい
・汚れにくく、清掃が容易
【デメリット】
・目地の段差が振動の原因になることがある
・タイルが欠けると修繕コストが高い
・冬場の凍結や雨天時の滑りに注意が必要
意匠性に優れつつも、微妙な段差や目地の処理を慎重に行わなければ、車椅子利用者にとって走行抵抗が大きくなることがあります。
デザイン性とユニバーサルデザインの両立には、細やかな設計配慮が求められます。
解決策③:樹脂系舗装 ― 弾性と滑り止め性能の両立

公園の園路や公共歩道などで採用されるのが、透水性樹脂舗装・カラー舗装です。
骨材を樹脂で固めるタイプで、柔らかい踏み心地と排水性が特徴です。
【メリット】
・クッション性があり、ベビーカーや歩行者にやさしい
・カラー選択が可能でデザインの自由度が高い
・水たまりができにくい透水性
【デメリット】
・高温時に軟化しやすく、車両通行には不向き
・紫外線で色あせや劣化が進行しやすい
・材料コストが高く、経年で補修が必要
「歩く」ことを中心にした施設には最適ですが、駐車場や車椅子スロープなど、荷重がかかる場所にはやや不向きです。
解決策④:自然素材の床仕上げ ― 機能と美観のバランス

コンクリートやタイルに比べ、より自然な質感を求めたい場合には天然石や砂利を使った仕上げが候補に上がります。
これらは視覚的なアクセントとしてだけでなく、表面の凹凸によって滑りにくさを確保できるという特徴もあります。
たとえば、石張り仕上げや玉砂利舗装などはデザインの一部として床を魅せることができる点が魅力です。
ただし、従来の石張りは施工手間が多く、平滑性の確保やコスト面で課題もあります。
では、「天然石のような表情を持ちながら、車椅子やベビーカーにも優しい床材」そんな理想を実現できる素材はあるのでしょうか。
ここで注目したいのが、「洗い出し」仕上げです。
セメントモルタルの表面を硬化前に水で洗い流し、骨材(砂利や玉石)を表面に浮かび上がらせる伝統的な左官仕上げ。
滑りにくく、自然石の風合いを持ちながら、フラットで車椅子にも対応できるという点で、ユニバーサルデザインと景観性を両立できる床材として再評価されています。
【洗い出しの主な特長】
・滑りにくく安全性が高い(微細な凹凸がグリップを確保)
・骨材の種類や色でデザインの幅が広い
・コンクリート基材で高い耐久性を持つ
・表面が均一で走行抵抗が少ない
アプローチ・スロープ・エントランス・駐車場など、用途を問わず対応でき、「無機質なコンクリートよりもやさしく、タイルよりも温かみがある」質感が魅力です。
【費用感と施工性】
費用相場は6,000〜12,000円/㎡程度。
一般的なコンクリートよりはやや高価ですが、デザイン性・耐久性・安全性のバランスを考えれば十分にコストパフォーマンスの高い仕上げです。
また、近年は骨材や施工方法の選択肢が増え、現代建築にも調和するモダンな洗い出しが主流になっています。
意匠と機能の交差点にある床仕上げとして
車椅子やベビーカーが通行できる床材を考えるとき、「滑りにくさ」「フラットさ」「耐久性」「デザイン性」の4要素を同時に満たすことは簡単ではありません。
しかし、素材の特性を理解し、適材適所で選ぶことで、機能だけでなく“空間としての豊かさ”を生み出すことができます。
天然石のような上質さと、コンクリートの安定性。
そして、人にやさしい滑りにくさを兼ね備えた洗い出し仕上げは、現代のユニバーサルデザインにおける有力な選択肢のひとつといえるでしょう。
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